高齢者の認知機能と精神病

2023.1.21 ほくとクリニック 山本 誉麿先生 認知症かかりつけ医フォローアップ研修

高齢者の認知機能低下をどう考えて治療するのか

1-1加齢性の認知機能低下  
言語性知能=結晶性知能は維持されやすい これは年齢とともに獲得したもので 言語や 理解、洞察など。反対に動作性知能=流動性知能は加齢の影響を受けやすい 感覚情報を理解し動ける力 地頭。視覚、聴覚の感覚器官の影響を受けやすい つまり加齢性の認知機能低下を抑えるにはこれに注意する

1-2認知症としての認知機能の低下
CHEI ADの進行予防 意欲をあげるがかえって介護負担の増強も  1-2割に嘔気嘔吐 下痢 特に開始時 増量時 怒りっぽくなったら 速やかに減量、中止を。ドネペジルは徐脈 失神あり、消化器症状は少ない 易怒性。ガランタミンは半減期が 5-7時間で 夜に増えないので 不眠が出にくい 消化器症状はドネペジルより多い リハスチグミンは 食欲、食行動を改善する 軽症から中等症までが保険適応 メマンチンは 眠気、痙攣、めまい 精神症状の悪化もたまに 高度の腎機能障害時は注意で 10mg/日で維持すること 易怒性や不安定を改善 幻覚・妄想を抑えてくれる

中等度とは家のことがやりにくいレベル=思ったより 認知症の程度は進んでいる

高齢者の精神病

①気分障害
気分障害は認知症の危険因子
MCIの32%がうつ状態
抗うつ剤を飲んでいても認知症になりやすい
うつ状態の人は2倍発症しやすい
双極性障害も認知症になるリスク2.7倍
認知症の早期症状のことも
ADに大うつ病の合併 14.8%
ABアミロイドβがつくと抑うつと不安が増強

DLB 60歳以上の鬱で 27%がMIBG取り込み低下
55歳以上の鬱で 24%が DATスキャン集積低下
高齢者の鬱を見たらレビーを疑う

VaD 24.7%がうつになりやすい
認知症の初期症状としてのうつ
家族も事実を受け入れられず 訓練的にかかわる 自信の喪失 ミスや失敗の指摘で 自信喪失

鬱を見たら 認知症発症の可能性をずっともつこと
大うつ病診断基準 DSM-5 抑うつ気分と興味の消失がメインの二つ でも高齢者は少し違う、悲哀がなく落ち込みがなく、うつが目ただない 意欲や集中力の低下 身体的不調にとらわれている場合が多く 不安が強い SSRI SNRIは 初期投与量の半分から SSRIのエスシタドールはQT延長に注意
アパシーと鬱の違い アパシーには 葛藤がない のんき

②幻覚・妄想 
年寄りの妄想は 被害妄想(ものとられと嫉妬妄想 特にDLBは ドパミンの不足があり ドパミンの性的関与の関係で嫉妬妄想が多い) と 誤認妄想
嫉妬妄想 家にいるのが奥さんと認識できず 家に配偶者がいない=浮気していると思い込む 女性に多い、聴覚障害や何らかのライフイベントが関与
妄想はその信念を 異常なほどに確信しており、説得や反論に対してきわめて不寛容 カメラで見せてもダメ 内容が荒唐無稽である
嫉妬妄想に対しては、格差を小さくする 本人に役割、介護者が感謝、お願いをしたり、介護者単独の外出は控えてもらう、デイサービスの間に外出して、デイサービスの送迎時には立ち会う 一時的な対応でよいことを家族に伝える
完全な効果は期待せず、訴えが少なくなったかな 嫉妬はあるが興奮はないという程度を目指す
向精神薬 転倒、誤嚥のリスク
物とられ妄想 AD・DLBでも多い 単身者に多い ADの初期症状 一緒に探す態度 見つかったらよかったねとポジティブに 家族との同居者にはすくない サポートあるほうが妄想を発展させにくい
D2受容体をブロック 初期投与量の半分から リスペリドンは糖尿病でも可 アリピプラゾールは糖尿病は 慎重投与
誤認妄想 
カプグラ症状 親しみを感じにくい 妻の服をかってに来ている 妻の顔をしているが親しいの感情がなくそっくりの別人と判断される
重複記憶錯誤 ある個人や個体が一人、一個体でなく複数存在する 前にこの病院に入院していてそれは別の場所にある 

作話とは 事実をゆがめた誤った解釈
外界に向けて だまそうとする意図はない 前頭基底部や前頭様眼窩部の障害 性格異常も。エピソード記憶の側頭葉内側とは違う場所の障害
単純幻視 光、シミ、無意味な視覚パターン 幾何学的模様 てんかん発作でもみられる
複雑性幻視 レビーでは人物>動物 

幻視≠錯視 錯視は見間違い 精神病では錯視はないので認知症を強く疑う パレイドリア=ないものに意味を感じる(錯視)

実体意識性
DLB以外ほとんど認めない DLBを強く疑う所見
幻視 があればその場所を触る 一旦視界から外す 部屋は明るくする カーテンやカーペットは無地を ものを減らす 眼疾患は治療を 恐怖や不安を和らげる DLBなら CHEIや抑肝散が効果的、向精神薬は効かない

老年期精神病
40歳から 60歳 発症は遅発性統合失調症 LOS。 60歳以上は 最遅発性統合失調症 女性 独身 独居 難聴 脳器質障害 病前性格 幻視や幻聴に 幻触や幻臭など複数がみられる 仕切りに対する妄想 仕切りを超えて入ってくる レーザーが入ってくる、侵入してくる partition delusion ADやDLBより幻聴が多い 進むと物忘れが出てきて 認知症と区別しにくくなる。問題点は 病識がなく受診歴無し ADLは保たれる 隣の電波で 迷惑行為になってから受診に連れてこられるケースあり 向精神薬の効果は部分的

アパシーにはアマンタジン ドーパミンをすこし上げる
鬱は注意障害が強いので 注意障害による物忘れがあるがMMSEは 点が高い 遅発再生はできる

続けて先端医学社パンフレットより

上田 愉 東京さつきホスピタル精神科
高齢者の元気がなく暗い状態やその訴えを診たとき、一番に身体疾患を疑い、それが除外できたとき鬱を疑う 日常の延長としての気分の落ち込み (過去には抑うつ神経症) と 過去に経験のないつらさを伴う落ち込み (過去には内因性うつ病) に大別される。もともとうつ病とは後者を指し、DSM診断では忘れ去られた感があるが、高齢者診療においては現在もその意義は消えていない 前者は心理性鬱、後者は身体性鬱と新たな用語で呼ぶことにする。高齢者では身体性鬱のほうが圧倒的に多く、これに高齢者医療の課題である フレイルが加わるが 鬱とは明確に区別したい
つらい出来事や適応困難な環境に曝されれば、だれで気分が落ち込みやる気がなくなり、食欲が低下し、睡眠もままならなくなる これが重度化して続くのが心理性鬱である。かつては原因の明確な抑うつ反応と心的葛藤から抑うつ神経症に分けられた。抑うつ反応であれば、その原因がなくなれば鬱はきえてしまう。生育歴や性格と関わる抑うつ神経症の場合は軽症のまま遷延することがある。この心理性鬱は高齢者には少ない。退職し会社の上下関係がないこと、恋愛から離れた人が多いこと 人生経験が豊富で人格も成熟し様々な耐性も身についていることなどが理由としては考えられる。高齢者は喪失体験が多いから鬱になりやすいとよく言われる。確かに連れ合いや友人に先立たれ、若い時の健康も消失し、家庭や仕事上の枠割も失いがちだが、しかし、それは万人に徐々に訪れる老いの現象であり、想定内のことであって心理性の鬱の原因になることはすくない。治療は悩みをもたらしている困難へのアプローチである。苦悩を和らげる精神療法やカウンセリングを行い、問題となっている現実を変える環境調整(周辺への働きかけ、生活を変える)も必要になる。薬は決め手にならず補助的に用いるのみ。

高齢者に最も多いのが、身体性鬱である 心理性鬱と異なり 外界の出来事や心的葛藤が原因で起こる心の変調でなく いわば本人もわからない原因不明の脳の変調である。生活上で明らかな原因があることはむしろ少なく、誘因と呼べるような些細な心配事や軽い病気などが見つかることが多い。しかもそれくらいのことでどうしてこんなひどい鬱に?と首をかしげるような誘因がすくなくない。つまり、本人も自分がなぜ鬱になり、これほど苦しんでいるのかわからないのである

さらに誘因となった心配事や病気がもし回復して問題がなくなって一旦始まったうつ状態は悪いままで治ることがない 身体性鬱は周囲のうれしい知らせや楽しい出来事にも気持ちが反応しなくなるのが大きな特徴である 身体性鬱の症状の中心はつらさであり、苦悶である 改善した多くの人が本当につらいい思いをしたあんな苦しいことはないという言い方をする 言いようのないつらさの中で苦悶しているのである 治療で重要なのは休養と薬物療法である 難治の場合は衰弱が進んだり、自殺企図の危険が迫ったりする前に麻酔科による無けいれん性の電気けいれん療法ECTが積極的に検討されるべきだ。精神科治療の傾聴が大事の原則は身体性鬱には当てはまらない 本人もどうしていいのかわからずただ苦しんでいるのである、傾聴してもらうべき悩みはない つらさを聞いてもらうだけでは解決にはならない 心理カウンセリングや精神療法も同様に効果は薄い 必要なのは笠原の小精神療法7か条だけである 

1なまけやせいかくではなく、病気であることwp認める
2できるだけ早く休養に入らせる
3予想できる治癒の辞典を明示する
4自殺をしないことを約素臆させる
5人生の大問題の決定は延期させる
6症状は一進一体することを伝える
7服薬の重要性と出現し得る副作用を伝える

身体性鬱の三型
①制止型
動けない 何ごとにも興味を持てない 話さない 食べられないという精神運動制止状態となる 改善が遅れると臥床状態が続き、上下肢の筋力のほか 嚥下能力も低下し、肺炎や歩行障害などの余病を併発しやすい 制止が重篤になると無限無動の混迷に至ることもある 改善が遅れるとうつ病の三大妄想といわれる心気、罪業、貧困妄想が派生することがあるが、妄想というより、二次性の妄想様観念に近い 抗うつ薬の効果がえられやすく 一般には NaSSA SNRIが推奨される。スルピリド25mgが著効を示す例も念頭に置き 効果不十分なら 炭酸リチウムや 非定型向精神薬による増強療法を行う
②不定愁訴型
憂鬱感や悲哀がほとんど目立たず、身体症状が全面に出るかつては下面うつ病と呼ばれた 身体症状症と誤診されやすい 対症療法的にBZが治療に用いられがちであるが、BZは認知機能全般に悪い影響を与える危険があり、適切な診断と静止型同様の抗うつ剤治療が望まれる
③焦燥型
じっとしていれずそわそわして落ち着きがなく歩き回ったり足ふみを続けたりしながらつらさを頻回に訴える 胸が痛い、足がしびれる 頭が重苦しいなどの症状が続き、身体的な苦痛を多く伴う 医療者が話を聞くと一瞬はその苦痛は和らぐかにみえるがすぐにぶり返す 患者の苦悩は制止型にもまして強い この型の中には 不安や不定愁訴を前駆として病初期から 大変な罪を犯してしまったという罪業妄想を生じるものがある 逮捕される 天罰を受けるなどと恐れを語り 治療で治るものではないと治療を求めず その意味で病識を欠き、自殺リスクが高い その欠からこれを気分障害圏ではないとみる立場もある 焦燥型の治療は総じて抗うつ薬が効きにくい 効果がないまま漫然とその後可能なら単剤化)を試みるべきである 治療が進展しないときはECT施行を早めに検討する

コロナ窩による自粛 閉じこもりで生じた筋力低下から歩行や運動がむずかしくなり 疲労感が強まって本来の元気をなくす状態はフレイルと呼ばれる 活気が失われ、身体的に疲労し、食欲が落ちて体重が減少する これは身体性鬱にも類似するが両者は全く異なる状態であり 見分けが必要である 違いの一つ目はフレイルは半年以上の長い期間を経てゆっくりと生じる慢性的な能力低下であるのに対して身体性鬱は誘因をきっかけに急性に表れるということである 先述のように誘因が見当たらないこともあるが、ある時期から急性に生じるのは同様である 二つ目の違いは本人の苦痛、つらさが大きく異なることである 強い憂鬱感や身体的苦痛、自分が自分でないような焦燥感が生じるのは身体性鬱d家である それはフレイルのような単なる体が世wくなった感じや外出へのオッ空間や食欲がわかない場外とはつらさの質も大きさを違う さらにその苦痛はフレイルのように 時間や日によってよい時もあるとい合った変動はほとんどなく 一貫して楽になることがない 治療も異なり、フレイルでは栄養を意識した食事摂取 ウォーキングなどのうんづお、活動量のチェックなどが奨励されるが、休養が重要な身体性鬱には逆効果である