間質性肺炎IPと肺線維症PF(間質性肺疾患ILDs)

2023年4月内科学会での講演がわかりやすかったので全面改訂

IDLsに含まれるIPとPFは、根幹たる病態は異なるが、一人の患者で同時または異時性にこの二つの病態が併存している。組織像では 前者はリンパ球を主体とする間質への細胞浸潤 後者は線維芽細胞巣からコラーゲン沈着を主体とする線維化。胸部CTにおいてもIPの特徴である濃い濃度上昇域 air space consolidation や薄い濃度上昇域(すりガラス影 GGA)とPFの特徴である蜂巣肺や牽引性気管支拡張が混在している。10年以上前はどのILDsでも治療薬がほぼGCに限られ疾患の理解を妨げてきたが、IDLsは決して少なくない疾患で、最近になり特に慢性型のIDLsにおいて抗線維化療法が注目されるに至り、炎症と線維化を区別した診察が必要となった。死因では呼吸器領域では 肺炎、肺がんに次いで3位、COPDより多くなっている。

IDLsを疑ったら 3方向から考える
まず 遺伝的背景や環境因子(無機・有機粉塵暴露)を考え
原因のわからないもの
 特発性IIPs
原因のわかるもの
 膠原病
 過敏性肺臓炎
 塵肺等の職業関連性
 薬剤性や放射性等の医原性
 その他 サルコイドーシス、肺胞蛋白症、リンパ増殖性疾患等

次に臨床経過から急性か慢性化 急性には急性間質性肺炎が、慢性にはIPFや線維性過敏性肺炎、一部の膠原病肺など振れ幅が大きい さらにIPFではGCはむしろ増悪因子とされている。
3つ目に病態は炎症性か線維性か
そして重症度の評価をしっかり行う 日本では安静時の動脈血酸素分圧と6分間歩行時のSpO2最低値を組み合わせたものであるが、労作時SpO2が低下しても安静時PaO2が正常なら軽症としていることは問題で、労作時SpO2が低下する患者は予後不良である。


選択される治療法が異なるようになり、慢性の進行性線維化を伴う疾患(PF-ILD)とそうでない疾患を区別することが必要となった。重症度判定で知りたいことは生命予後の予測と日常生活動作レベルの2点

2011年転機 IDLsのうち 両肺下葉に典型的UIPをとるものをIPF特発性肺線維症といい、IPFには抗炎症薬より抗線維化薬 ニンテダニブ(オフェブR)、ピルフェニドン(ピレスパR)のながれができた
2019年 進行性線維化を伴うILD(PF-ILD) に抗線維化薬のオプションが追加された

ILDに含まれる疾患
IPF 特発性肺線維症 予後不良2-3年 5生 20~40% 指定難病 
ILDを見たらまずIPFの可能性を考えて診断を進める
原因があるものをのけ、残りからHRCTで典型的UIPパターンを示すものを多職種議論の上IPFと診断。それ以外は気管支肺胞洗浄BALを行い 臨床、画像評価を合わせたうえで IPFか否かを診断する。

典型的 usual UIPパターン⇔非特異的間質性肺炎
空間的、時相的に均一 自己免疫疾患や過敏性肺炎を背景にすることが多い

PF-ILD 間質性肺疾患で進行性肺線維化がフェノタイプであるあたらしい概念による病態名が提唱される。
前述の膠原病肺、塵肺、薬剤性肺炎はすべてPF-ILDに属するが、その他のILDで線維化が生じるものに関しては 20-30%が進行性線維化を呈する。2020年日本でもニンテダニブがPF-ILDに保険適応となるが、どの段階で進行性線維化と見極めるか、抗炎症薬との使い分けはどうするのかは今後も検討課題。

SSc 全身性強皮症 うちびまん性皮膚硬化症は 2年以内にILDを含めた各病変が急速に増悪し、その後呼吸不全や心不全が進行。全体の25%が ILDで死亡、ILDは抗炎症薬により進行抑制ができる症例が多いものの、30%が慢性進行性に線維化を生じる。ニンテダニブの適応であるが 7割は10年の経過でILDは安定化するといわれており、適応に関しては今後の議論が必要。

PM/DM 多発性筋炎、皮膚筋炎
抗MDA5抗体陽性ILDは急速進行性であるが、そのほかはほとんどが抗炎症薬にて改善または進行抑制ができるため、抗炎症薬が第一選択となる。特に抗ARS抗体症候群は主に亜急性、慢性の経過をきたすが、筋炎症状の有無に関わらず、IDLは抗炎症薬特にステロイドと免疫抑制薬の併用が有効で第一選択。しかしながら、減量に伴い再燃も多く、ほぼ寛解から線維化進行し呼吸不全に至るまで幅広い。死亡原因の半数は ILD。

RA 関節リウマチ
もっとも多彩。器質性肺炎OPパターンを呈するものは 急性、亜急性に発症し、抗炎症薬、特にステロイドにて軽快。一方慢性に発症する非特異性間質性肺炎NSIPパターンやUIPパターンはどちらも進行性線維化をきたし、RA全体の3割弱。ILDが死亡原因となるのは10%弱。

過敏性肺炎 HP
急性、慢性の分類から 非線維化性と線維化性に変更
非線維化性は 抗原や発症日が明らかであり、急性、亜急性に発症して、抗炎症薬にて改善しやすいので困らない。
線維性は検索にても原因不明で BALのリンパ球増加もなく、蜂巣肺をきたしてくることもまれではなく。IPF等の線維性ILDとの鑑別も困難。蜂巣肺のあるタイプの5年生存は 50%と予後悪い。
夏型過敏性肺臓炎古い木造家屋の真菌 トリコスポロンが原因 抗トリコスポロン・アサヒ抗体
冬期は 鳥関連過敏性肺炎 鳥特異的IgG

ILDsを疑う症例がに出くわせば専門医に紹介すること
時に急性増悪AEと呼ばれる急激な悪化を示すことがある 死因の最多40%なので薬物療法を行わない場合でも、定期的な外来受診とリスクの回避を日常管理として心がけたい
専門医の診断のポイント
膠原病、薬剤、PH、塵肺、家族関連を頭に入れて
視診 ペリオトロープ疹、ばち指、Gottron徴候、メカニックハンド、逆Gottron徴候、爪上皮出血点、Raynaud現象、

聴診 ILDには背側下方の捻髪音fine crackles(吸気終末期)の聴取が重要、軽症例では深吸気が必要 coarse cracklesが混じっていないか、喀痰は、強制呼気時にwheezesやrhonchiが聞こえないか 撥指はILDを疑う重要所見

検体検査
肺胞上皮由来の KL-6、SP-A、SP-D、LDH、炎症(決算、血沈、CRP、フィブリノーゲン)
栄養状態としてアルブミン、ChE 膠原病のスクリーニングとして 抗核抗体ANA RF、抗細胞質抗体である抗SS-A抗体、MPO-ANCA抗体、PR3-ANCA抗体、抗ARS抗体 尿検査で腎病変の合併を見る。喀痰検査では一般細菌+抗酸菌もみる。動脈血ガスで呼吸不全の有無を評価。膠原病患者の肺病変保有率は20ー80%と高率である。

画像検査
生理検査 VC,FVC のほか初診時や病態変化時には、全肺気量TLC 残肺気量RVの測定が望ましい。
レントゲン 線状・網状影やすりガラス陰影 また肺の容積低下で横隔膜との境界が不明瞭
心エコーでPHのスクリーニング PH 第3群のみでなく1,2群の可能性も考えて精査。HRCTは必須。IPFの特徴所見は蜂巣肺でありこのような線維化病変の終末像を伴う症例は予後不良と推定できる


気管支鏡検査
外科的肺生検 経気管支的クライオ肺生検 TBLC transbronchial lung cryobiopsy

難治性IDLsに光明をもたらした抗線維薬であるが、病気の進行を完全に抑えこむ効果は期待できない
経口薬ホスホジエステラーゼ4B阻害薬の治験進行中。


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