高齢者で入院、入所時の検査で TPHA陽性と出ることが時々あります。その際の対処を知るにも 梅毒検査、症状、治療を知っておく必要がある。梅毒診療ガイドは非常によくまとまっており、以下はダイジェストである。
血清抗体検査
カルジオリピン、レシチンのリン脂質を抗原とする脂質抗原検査(STS)非特異的。ガラス板法、RPR法、凝集法、緒方法があり、古く「ワッ氏」と呼ばれた検査はワッセルマン氏が報告したSTS。RPR法以外は現在は行われない。
他の炎症性疾患やSLEなどの自己免疫性疾患で梅毒以外の疾患でも陽性を示す生物学的偽陽性(BFP)が5~20%
梅毒トレポネーマ(TP)由来の抗原特異的
TP抗体、TPHA法やFTA-ABSは特異性が高く、偽陽性率は0.1~0.5%
これが陰性なら 非梅毒または感染から1か月以内 陽性なら活動性か既往、区別は2-4週後にRPRとTPを再検
STSでは主にIgM、TPHAでは主にIgGが反応しているため、梅毒感染後2~5週でSTSが陽性となり、次いでFTA-ABS、少し遅れてTPHAが陽性となる。逆にSTSが治癒後に陰性化しやすいのに対し、TPHAは長く陽性が続く。
よって、梅毒の診断ではSTSであるRPR法定性とTP抗体を併せて行い、陽性の場合は定量検査を行う。治療後の効果判定にはRPR法定量を定期的に追跡して8倍以下に低下することを確認。
症状、経過
近年、梅毒は図 2 のような複雑な進行形態をとる慢性感染症と考えられるよ うになってきている。下記の点に留意する。
1.感染から発症までの期間にバリエーションが大きい。
2. 第 1 期の時期にすでに中枢神経浸潤が起こりうる。たとえば眼病変が後期 (晩期)梅毒とは限らないことに注意。
3. 第 2 期と潜伏梅毒はサーキットを形成する(症状が現れたり自然に消えた りを繰り返す)ことがある。
4. 第 1 期の病変と第 2 期の病変は併存することがある。
5. 潜伏梅毒は感染初期の「真の潜伏期」以降、あらゆるフェーズでみられう る。
治療の要否から
活動性梅毒(治療を要するもの;A・B)と陳旧性梅毒(治療 不要のもの;C)に大別する。
A. 病期による分類
早期梅毒 感染から 1 年未満の活動性梅毒。性的接触での感染力が強いとされる。
早期梅毒第 1 期 感染から通常 1 か月前後(遅くとも 3 か月以内)にみられる侵入門戸(口唇、口腔咽頭粘膜、陰部周辺、肛門周辺など)に丘疹、びらん、潰瘍などの一 次病変のある活動性梅毒。所属リンパ節腫脹を伴うことが多い。初期硬結、硬性下疳(こうせいげかん 丸く縁どられた潰瘍)は典型的な一次病変である。 病変から採取された検体の梅毒 PCR 陽性が決め手になるが、前述の問題があるため、通常は代理指標として梅毒トレポネーマ抗体陽性を参考にする。 従来重視されてきた RPR はしばしば陰性である。 一期疹硬性下疳と二期疹バラ疹は併存しえる。
早期梅毒第 2 期 感染からおおむね 1~3 か月にみられる体内に散布された梅毒トレポネーマ による二次病変に基づく症状(*)のある活動性梅毒。一次病変が重畳することもある。病変から採取された検体の梅毒 PCR 陽性が決め手になるが、前述の問題があ るため、通常は代理指標として梅毒トレポネーマ抗体陽性を参考にする。RPR は 通常高値(16 倍、16RU 以上)である。
*皮膚病変では、紅斑、丘疹、脱毛斑、肉芽腫などがみられ、多発するのが 一般的だが単発のこともある。梅毒性バラ疹、丘疹性梅毒疹、扁平コンジロー マは典型的な皮膚の二次病変である。 他にあらゆる臓器の病変がありうる(多発性リンパ節腫脹、精神神経症状、 胃潰瘍症状、急性肝炎症状、糸球体腎炎症状など)。 専門家でも誤診例には 頭痛、AGA、ジベル、アトピー、爪囲炎、性器ヘルペス、陰部アテローム、陰部外傷、裂肛、悪性リンパ腫など。梅毒性バラ疹は皮膚科でもアレルギーによる粃糠ジベルばら疹と誤診されることも。
後期梅毒 感染から 1 年以上経過した活動性梅毒。性的接触での感染力はないとされる。 症状は冒されている臓器によって様々である。無症状のこともある。無症状で も活動性(要治療)と判断されるものは潜伏梅毒に分類する。
第 3 期梅毒 感染から年余を経て心血管症状、ゴム腫、進行麻痺、脊髄癆など、臓器病変 が進行した状態にある活動性梅毒
B. 病期を問わない分類
潜伏梅毒 自他覚症状はないが、既往歴・感染リスク・梅毒抗体価の有意な上昇等から 要治療と判断される活動性梅毒。RPR の多寡は問わないが、一般に感染時期から 離れるほど、RPR、梅毒トレポネーマ抗体の値はともに高くなる。感染から 1 年 未満を早期、1 年以上を後期とする。
先天(性)梅毒 活動性梅毒の妊婦からの胎内感染が推定される症例で、上記の分類のいずれ かを満たすもの。無症状の場合、潜伏梅毒にも分類される。感染から 1 年未満 を早期、1 年以上を後期とする。
C. 陳旧性梅毒 梅毒が治癒状態にあると判断されるもの。治癒状態における梅毒抗体の値は 様々であり、症状の安定化、RPR、梅毒トレポネーマ抗体の値の推移等から総合判断せざるを得ない。
活動性梅毒の診断基準の整理
- 症状がある症例のうち、以下のいずれかを満たすもの
① PCR 陽性のもの(*1)
② 梅毒トレポネーマ抗体・RPR のいずれかが陽性であって、病歴(感染機会・ 梅毒治療歴など)や梅毒トレポネーマ抗体・RPR の値の推移から、活動性と 判断されるもの(*2) - 症状がない症例のうち、梅毒トレポネーマ抗体陽性で、病歴や梅毒トレポ ネーマ抗体・RPR の値の推移から潜伏梅毒と判断されるもの
*1:梅毒トレポネーマ PCR 検査の種々の制約で事実上、この基準を満たすケ ースは少ない。
*2:梅毒トレポネーマ抗体・RPR のいずれかが陽性であっても、病歴や梅毒ト レポネーマ抗体・RPR の値の推移から活動性がないものと判断される場合は、陳 旧性梅毒と判断される。
判断に迷う可能性のある事例の考え方
初期硬結や硬性下疳を認めるが、RPR(-)、梅毒トレポネーマ抗体(-)
・病変部滲出液の PCR 検査を試みる。
・感染機会、梅毒治療歴をよく聴取し、梅毒の可能性が高いと判断した 場合は暫定的に治療開始。
・PCR 陽性が確認できた場合、活動性梅毒確定例と判断する。
・PCR 陰性または実施できなかった場合、治療開始の 2~4 週間後に、RPR、梅毒トレポネーマ抗体の両者を再検し、一方もしくは両者が陽転化していた場合は 値の多寡に関わらず活動性梅毒と判断する。
・PCR 陰性または実施できず、かつ、RPR と梅毒トレポネーマ抗体の両者が陰性 のまま推移していた場合は疑診例にとどまる。
症状は全くないが、RPR(+)、梅毒トレポネーマ抗体(+)
・感染機会、梅毒治療歴をよく聴取する。
・感染のリスクが 3 か月以内にあり、過去の治療歴がなく、活動性梅毒と医師 が判断した場合は潜伏梅毒として治療を開始する。判断が困難なときは 2~4 週 間後に再検査する。
・感染のリスクが 3 か月以上ない場合、4 週間後に RPR、梅毒トレポネーマ抗体 を再検する。どちらかが有意な増加をしていた場合は活動性梅毒と判断し、潜 伏梅毒として治療を開始する。どちらも増加がない場合は慎重な経過観察を行 うが、活動性梅毒と判断して治療開始することもありうる。
治療
用量は成人量を記す。 アレルギーなど特別な理由がない限り、第一選択のペニシリンを用いる。 第二・第三選択は、アレルギーなどでペニシリンが使えない場合に限り、使用する。 妊娠期梅毒でペニシリンアレルギーがある場合は、治療経験のある医療機関 に紹介する。
【第一選択】 アモキシシリン 1 回 500mg 1 日 3 回で 4 週投与を基本とする。
(早期神経梅毒の治療を重視して、アモキシシリン3g~6g/日とプロベネシ ドの併用(投与期間は2週間程度)を勧める文献が国内外にある)。治療の初め頃の発熱(Jarisch-Herxheimer 反応)と投与 8 日目頃から起こり うる薬疹についてあらかじめ説明しておく。いずれも薬疹は女性に起こりやすいこと 。
【第二選択】 ミノサイクリン 1 回 100mg 1 日 2 回で 4 週投与を基本とする。 テトラサイクリン系は胎児に一過性の骨発育不全、歯牙の着色・エナ メル質形成不全を起こすことがあるので、妊婦には使用しないのが一般的であ る。
【第三選択】 スピラマイシン 1 回 200mg 1 日 6 回で 4 週投与を基本とする。
治療効果判定 (RPR と梅毒トレポネーマ抗体の同時測定)
4 週ごと。RPR陽性梅毒の場合、その値が治療前値の、自動化法ではおおむね2分の1に、2 倍系列希釈法(*2)では 4 分の 1(例:64 倍→16 倍)に低減していれば、 治癒と判定。その際、梅毒トレポネーマ抗体の値が減少傾向であれば治癒 をさらに支持する。 なお、RPR と梅毒トレポネーマ抗体を 2 倍系列希釈法でフォローすると、自動化法なら順調に低減しているケースにおいて、一見、低減がみられない、もしくは倍に増加したようにみえる場合があり注意を要する。 RPR 陰性早期梅毒の場合、症状が軽快し、かつ、梅毒トレポネーマ抗体の値が 減少傾向にあることを確認できれば、治癒と判定。 いずれの場合もその後、検査間隔をあけながら、可能な限り 1 年間はフォロ ーを勧める。 RPR もしくは梅毒トレポネーマ抗体の低減が思わしくない場合、漫然と投与を 継続せず、治療経験の豊富な医師にコンサルトする。
*1:自動化法は自動分析器で抗体価を測定する方法で、結果は連続実数値で 示される(例:2.5 RU、2771 TU、など)。
*2:旧来の用手目視で測定する方法で、結果は陰性、あるいは希釈系列の倍 数で示される。RPR は 2 のn乗(例:1 倍、64 倍)、TPHA は 80×2 のn乗(例: 80 倍、2560 倍)というように。自走化法と用手法は同じ単位である。
その他留意事項
- 妊娠中の梅毒抗体検査で活動性梅毒と判明したら速やかに治療開始で胎内感染の防止を。妊娠中期、後期に母体が梅毒に感染することもあるので必要に応じ再検査。
- 活動性梅毒と判断した場合、可能な限り、HIV 抗原・抗体同時測定検査も行う。 梅毒がある、あった、疑うときはHIVは保険適応。男の梅毒はHIVを疑え。
- 接触者の検診も可能な限り行うが、感染時期から間もない場合、見逃しを防ぐために 3 か月間はフォローを勧める。
届け出
症状あって 両方陽性 届け出
症状あって 片方陰性
硬性下疳+RPR- 届け出不要
硬性下疳+TPHAー 届け出不要
症状なくても潜伏梅毒 RPR15.5RV 16倍以上なら届け出要 未満なら不要
RPRは CRPみたいなもの 早期は―のこともある。
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ヨクイニンでぺニシリンが効かなくなる
TPHAプラスでも再感染はある、防御免疫ではない。