自己と非自己の識別
同一の病原体に対する免疫記憶
多様な病原体に対応するための 自然免疫と獲得免疫とういう 2つの防御系
①バリアを突破して病原体が侵入すると局所で直ちに病原体関連分子パターンPAMPsをパターン認識受容体PRRsが非自己として識別し自然免疫が発動。
②まずマクロファージ(大食細胞)が立ちはだかり、病原体を食べて活性化しサイトカインを放出。放出されたインターフェロンは周囲の仲間に気合を入れ、体中を臨戦態勢にし、 免疫細胞を付近の血管から抜け出しやすくする。ケモカインは遠くの免疫細胞をよびよせる。
③まず好中球が呼びよせられ、食細胞なのでなんでも食べるが、 生きている正常な細胞は目印が出ていて手を出さない。病原体を食べれば自身も死滅して膿になる。
④食べる病原体ごとの特有分子を認識するセンサーがTLR(Toll様受容体)パターン認識受容体。壁の薄いグラム陰性菌の細胞壁上層のリポ蛋白を認識するのがTLR4。グラム陽性菌の分厚い細胞壁やグラム陰性菌の薄い細胞壁下層を構成するペプチドグルカンを認識するのがTLR2。なんとTLR9は病原体のDNAを認識し、ヒトのDNAと病原体のDNAを区別する。DNAを認識できるならウイルスのRNAを認識するものがあるのではということでTLR3や7も発見された。 TLR5 は鞭毛をもつ細菌の鞭毛のフラジュリンという蛋白を認識する。 TLRは食細胞の細胞壁に分布するものと取り込んだ病原体を分解するエンドソーム膜に内側に向けて分布するものがある。TLRの他に食細胞の細胞質にあってウイルスのRNAを認識するRLRリグアイ様受容体、真菌の細胞壁を構成する糖鎖を認識するCタイプレクチン受容体 、NLRノッド受容体やcGASなどのパターン認識受容体も見つかった。ウイルス疾患である尖圭コンジロームの治療軟膏 イミダゾキノリン は、 この一本鎖RNAウイルスをたべた患部の食細胞のTLR7に働いて免疫を活性化させる。以上が自然免疫。
⑤獲得免疫は樹状細胞が外来性抗原(例えば細菌や寄生虫、毒素など)を取り込むところから始まる。エンドサイトーシスにより小胞(エンドソーム)内に取り込まれた抗原は、小胞の成熟に伴いプロテアーゼによりペプチド断片に分解され、MHCクラスII分子(人ではHLA)にのっかった抗原ペプチドとして細胞表面に発現する。T細胞は骨髄で作られ胸腺で成熟するが、抗原提示をうけていないものがナイーブ(T0)で、表面にCD4分子 をもつナイーブCD4T細胞と CD8分子をもつナイーブCD8T細胞 がある。ナイーブCD4陽性T細胞は、このMHCクラスII分子上に提示された抗原を認識するが、同時に樹状細胞がインターロイキン(IL)-12というサイトカインを産生する状況下では、インターフェロン(IFN)γなどを主に産生するTh1(Tヘルパー1)細胞へと分化していく。一方で、この時にIL-12ではなく、IL-4の存在下で活性化されるとTh2(Tヘルパー2)細胞へ分化し、またTGFβやIL-6存在下ではIL-17を産生するTh17(Tヘルパー17)細胞へと分化していく。これに濾胞ヘルパーT細胞(Tfh細胞)を加えたサブセットは、異なるサイトカインの産生を通じて標的となる細胞の働きを調節して病原体に応じた免疫応答を促進する。同様に分化したTregは免疫反応を抑制する。ナイーブCD8T細胞は抗原刺激を受けて活性化し、キラーT細胞(細胞障害性T細胞 :CTL)に分化する。
⑥まとめるとナイーブCD4T細胞は抗原提示細胞のMHCクラスⅡ +抗原ペプチド+補助刺激因子+サイトカインの3つがそろうと活性化され、ヘルパーT細胞(Th細胞)や制御性T細胞(Treg)に分化してリンパ節を出て血流にのり、すでに侵入した病原体を食べて活性化しているマクロファージがいる局所で、ケモカインの効果で血管から出る 。ここでもマクロファージのMHCクラスⅡ +抗原ペプチド+補助刺激分子の結合、サイトカインの3つの条件下で活性化ヘルパーT細胞はマクロファージをより活性化し、 マクロファージは抗原特異的に食べまくる。これが獲得免疫第一弾。マクロファージを抗原特異的に活性化する際に3つの条件が必要なことが自己免疫疾患をおこさないために重要である。自己細胞の死骸のみを食べた樹状細胞の表面にはMHCクラスⅡに自己細胞由来のペプチドだけが乗っており 活性化しない。
⑦B細胞やT細胞はゲノム遺伝子の再構成により多様化する抗原受容体によって抗原を認識する。個々のB細胞またはT細胞は単一の抗原受容体(T細胞の抗原認識受容体はTCRと呼ばれる)だけを発現するため、特定の抗原特異性をもつ細胞が少数のみ存在することになり、病原体が感染すると、その病原体に結合できる抗原受容体をもった細胞が選択され、病原体に特異的なエフェクターリンパ球のクローン増殖がおきる。クローン増殖には一定の期間を要するため、獲得免疫が働き始めるのは感染後1週間ほど経過してからとなる。増殖したリンパ球クローンの一部は長寿命のメモリー細胞に分化して免疫記憶を担う。
⑦獲得免疫はあらゆる病原体の侵入に備える一方で 自己成分には不応答性となる自己寛容を示す。つまり獲得免疫は正と負の調整系で制御されているが、過剰な免疫反応と自己寛容の破綻を生じると生体にとって不都合なアレルギー反応や自己免疫疾患などの原因となる。
⑧B細胞は骨髄で作られ骨髄で成熟し、リンパ節の胚中心にいる。このナイーブB細胞は流れ着いた病原体の抗原が表面のB細胞抗原認識受容体にぴったりくっつくと、抗原を中に引きずり込む。この受容体も1000憶通りあるが、一つのB細胞は一タイプの受容体しか発現しておらず、同じタイプの受容体をもつB細胞は100個くらいである。自己の細胞の破片がながれついてもぴったりくるものはいない。たべたB細胞は少し活性化して抗原をペプチドにまで分解し、表面に提示する。これにリンパ管を流れている活性化ヘルパーT細胞がくっつき、さらにB細胞を活性化してB細胞は抗体を産生する形質細胞(プラズマ細胞)になる。これにも補助刺激因子、活性化ヘルパーT細胞からのサイトカインの3つの条件が必要。
⑨まずIgM型のプラズマ細胞ができる。IgMがでて次にIgGも少しでるが親和性成熟がおこっていないので抗原への結合力は弱い。 陳列された抗原とぴったり合うようにB細胞抗原認識受容体が突然変異したB細胞がIgG型のプラズマ細胞になる。これが抗体の親和性成熟とクラススイッチである。抗体の作用には抗原を中和する作用と下半分のFc領域が食細胞のFc受容体に結合することで食細胞が激しく抗体にくっついた毒素を食べはじめるのを仲介するオプソニン効果とがある。これが獲得免疫第二弾。
⑩抗体は細胞の中にまで入り込めないので、細胞に感染したウイルスやリケッチアやクラミジアなど細胞内に寄生するタイプの細菌に対しては無力。キラーT細胞がこれを攻撃するのが獲得免疫第三弾。体細胞はMHCクラスⅠ分子というお皿に自分の細胞由来のペプチドを載せて提示している。感染細胞ではこのMHCクラスⅠ分子の皿に細胞質内で活発に産生されたウイルス粒子の一部がのっている。感染した(抗原を食べた)樹状細胞はMHCクラスⅠ分子に自己あるいは病原性ペプチド、Ⅱ分子の皿に病原体ペプチドをのせた状態で抗原提示している。ⅠにはナイーブキラーT細胞が結合し活性化キラーT細胞になり、ⅡにはナイーブヘルパーT細胞が結合し、活性化時に存在するサイトカインの環境によりTh1、Th2、Th17細胞などへと分化していく。活性化キラーT細胞は抗原認識受容体TCRを介して感染細胞の同じ抗原にも結合し、特殊なたんぱく質を放出して感染細胞に穴をあけ、その穴から酵素を注入してアポトーシスを誘導する。もう一つは相手細胞が出しているアポトーシスのスイッチを直接押してアポトーシスを誘導する。
⑪最後は自然免疫に続いて誘導される獲得免疫系は その機能を最大限に発揮するために再び自然免疫系と連携する。たとえばTh1細胞は、IFNγを産生しマクロファージを活性化して食作用を増強することで細胞性免疫を促進する(これは獲得免疫第一弾として上述済)。Th2細胞は好酸球、好塩基球、肥満細胞を活性化する働きを有し、Th17細胞は IL17やIL22を活性化し好中球をエフェクターとする炎症反応を促進する。B細胞が産生する抗体はオプソニンとして働いて食作用を増強する。
新たに同定された自然リンパ球ILC にも 産生するサイトカインと分化を制御する転写因子の発現により 機能的はサブセットが存在し、グループ1ILC(ILC1)、ILC2、ILC3がそれぞれTh1,Th2およびTh17細胞と同様なサイトカインを産生して免疫応答を調整する。うちILC2はIL33に強く反応し、2型サイトカインを産生し今までTh2細胞による獲得免疫系の観点から考えられてきたアレルギー研究に大きな変革を起こした。IL33は細胞内にあるが、組織が尊重し、細胞が死ぬと(ネクローシス)外に出てきて ILC2を活性化する。アトピー性皮膚炎でかきむしるとネクローシスでこの反応が起こる。喘息や好酸球性慢性副鼻腔炎ではILC2の関与がはっきりしている。
⑫キラーT細胞の働きを補完する自然免疫細胞の話。病原体は感染細胞にMHCクラスⅠ分子を出させないようにする。これが出ないとキラーT細胞は働けない。感染細胞が出すインターフェロンにはMHCクラスⅠ分子の発現促進効果があるが、追い付かないときに活躍するのがNK細胞。病原体の感染をTLRが認識し、細胞の表面にCD80/86やNKG2Dリガンドがでて、かつ病原体が邪魔をしてMHCクラスⅠ分子が細胞の表面にでていない時のみNK細胞は活性化され、キラー細胞と同様の方法で感染細胞にアポトーシスを誘導する。
⑬臓器移植における拒絶反応には直接認識と間接認識がある。
直接認識は、ドナーの樹状細胞が ドナーMHC+ドナーペプチドをレシピエントに抗原提示する
間接認識はレシピエント樹状細胞がドナー細胞を食べ同じ人なのでドナータンパク質はほとんど同じのため、レシピエントMHC+ドナーMHCペプチドをレシピエントに抗原提示する。
⑭CD4陽性T細胞のサブセットの中には制御性T細胞Tregも存在する。 末梢組織に発現した自己抗原を認識する自己反応性ナイーブT細胞と競合的に働いて反応を抑制し自己免疫疾患の発症を防いでいる。末梢での免疫寛容の中心的役割。CTLA-4を高発現。
免疫記憶
腸管免疫 小腸の絨毛には毛細血管とリンパ管が分布しており、毛細血管からはアミノ酸やブドウ糖が、リンパ管からは脂質が吸収される。絨毛では粘液上皮細胞が最外層にならび、下にポケットをもつM細胞という並びを挟む。M細胞の下にはパオエル板というリンパ組織がある。粘膜上皮細胞の下の粘膜固有層には免疫応答の結果としてプラズマ細胞(抗原産生細胞)がならび、粘膜上皮細胞をとおして、腸管内にむけて抗体を放出している。M細胞は特殊な受容体を腸管内に出し、食物と一緒に流れてきた細菌やウイルスをポケットに取り込む。パイエル板内で樹状細胞はナイーブヘルパーT細胞に抗原提示を行い、B細胞はプラズマ細胞前駆体となって血流にのり再び腸管に戻ってきて、粘膜固有層の中でプラズマ細胞となり、IgAクラスの抗体を腸管の粘液層に放出する。このIgAのクラスのみ腸管や肺の内腔や母乳中に輸送される。中和作用はあるが、オプソニン効果はない。腸管粘膜細胞に17型の活性化ヘルパーT細胞が多い。この分化はセグメント菌という腸内細菌が行う。制御系T細胞への分化はクロストリジア属第46株が受け持つ。
内在性リガンド TLRなどのパターン認識受容体は、病原体だけでなく、内在性リガンドを認識しても活性化する。病原体がかかわらずに炎症が惹起される現象を自然炎症という。内在性リガンドで食細胞が活性化され当然樹状細胞も活性化するが、自己反応性のナイーブT細胞が存在しないこと、制御性T細胞が始動されることにより獲得免疫が働くことはない。痛風、AD、糖尿病、動脈硬化などの疾患の原因になっている可能性がでてきた。食細胞が尿酸結晶を飲み込むと細胞が活性化され、(ストレスが加わり)インターロイキン1βが放出される。詳細は食細胞が尿酸結晶を飲み込むと、結晶の刺激でミトコンドリアが損傷され、微小管にアセチル基がつき、損傷したミトコンドリアが、微小管の上に乗り、細胞の中央の小胞体までいく。小胞体では、パターン認識受容体の一つNLRP3とミトコンドリアの持つ部品とカスパーゼが混ざってインフラソームという複合体ができ、これがIL1βをマクロファージ内で成熟させて外に出す。コルヒチンは微小管を壊すことで、ミトコンドリアの移動を阻み、IL1βの産生を抑制する。この仕組みはアスベストやシリカでも同様である。脳ではAβがミクログリアに食べられるとIL1βが放出され、炎症が起こり、神経細胞が死ぬ。コレステロールも結晶化し、血中のマクロファージに食べられたら同様にIL1βが出る。これが動脈硬化の原因となるのではないかとされている。
癌免疫応答
癌ペプチドワクチン療法 がんゲノムの全配列を調べ、がん細胞にのみ発現している変異を見つけ、ペプチドを合成し、抗原としてワクチン接種する。抗がん剤はアポトーシスを誘導するが、一部ネクローシスも誘導する。大量のネクローシスは自然炎症を起こすと、ペプチドワクチン療法と同様のことが体内で起こる。癌ペプチドワクチンが効かない理由には制御性T細胞の存在がある。普通なら抗原特異的にナイーブヘルパーT細胞やナイーブキラーT細胞が活性化するのであるが、癌細胞もともと自己細胞であるので、そうならずにCTLA4という分子を表面に出す制御性T細胞がそれらを抑制してしまうことが多い。またがん細胞がPD1Lという分子を表面に出し、活性化T細胞に発現するPD1という分子に結合してT細胞の活性化を抑制する。さらにこのとき、双方向的にがん細胞にも抗アポトーシスシグナルが伝わり、活性化T細胞が攻撃してもがんはアポトーシスを起こさなくなってしまう。将来的には、がんペプチドワクチン療法と、がん細胞の抑制分子をブロックする方法が併用されていく。がんペプチドワクチンが効く人と効かない人の違いはなにか、ペプチドに突然変異が起これば異物と認識し劇的に効くのかも。
がん治療に関して最後に抗体療法がある。がんの表面には増殖に関係する受容体がある。これに抗体を結合させて機能を焼失させれば、がんの増殖が抑えられる。この考え方のもと既に抗体が人工的に合成され、乳がんや大腸がんなどの治療に用いられている。
セントラルドグマ 遺伝情報が体の機能たんぱく質の構造を一方的に定めるのでって、情報の逆流は起こらない。この意味するところは獲得形質例えばスポーツ選手の鍛えられた強い筋力は遺伝しないという物質的基礎である。DNA(ゲノム)の大部分はジャンクで、エクソン、イントロンと制御配列を含めて一つの遺伝情報の単位すなわち遺伝子が作られる。最近ジャンクがRNAに転写されていることが明らかになった。このうち分子量の小さな20-30塩基のマイクロRNAと呼ばれる一群のRNAはヒトで千数百万種類存在し、それがmPNAの翻訳や転写の制御にかかわっていることが明らかになった。
心臓irAE 免疫関連有害事象
T細胞前駆細胞が骨髄で作られ、胸腺で成熟する過程で、自己抗原を強く認識するTCRを発現するT細胞は排除されるが、一部はこの負の選択をすり抜け末梢に出現する。心臓に関しては 心筋αミオシン重鎖に反応するT細胞が健常人においても末梢に存在する。しかし、末梢におけるCTLA-4抗体や PD-1経路を介する免疫寛容機構がこの自己反応性T細胞による心臓への攻撃を防いている。チェックポイント阻害剤により、CD8陽性T細胞とマクロファージの心筋組織内浸潤である心筋炎が発症する。血清トロポニン値の異常がマーカーとなる。
Type 2サイトカイン病
活性化Th2やILC2自然リンパ球(活性化T細胞とそっくり同じサイトカインを出す自然免疫細胞)から サイトカインが放出され
・IL5 好酸球 メポリズマブ
・IL4 IL13 B細胞IgEを介して肥満細胞、好塩基球 オマリズマブ 抗IgE抗体
・IL4 IL13 気道上皮細胞に作用し呼気NO 血清中ペリオスチン IL4リセプター抗体デュプリマブ
好酸球
ペリオスチン(IL4 IL13などの炎症性メディエーターの活性化で産生され、皮膚組織に沈着する蛋白質、これがさらに別の炎症性メディエーターを活性化し、アトピーの慢性化に関与)
IgE
いずれかが効く喘息が83% 抗IgE抗体薬は 蕁麻疹に効くがアトピーには効かない
皮膚のバリア機能を保てばアトピー性皮膚炎の発症を抑制できる
小児期はアレルギー性喘息 IgEを介する 食物アレルギー→アトピー→アレルギー性鼻炎に続く
成人発症の喘息は好酸球が大きな影響 気道で初めに炎症が出る アレルギー性副鼻腔炎 アスピリン喘息 好酸球性多発性肉芽種症 アスペルギルス気管支炎
抗IL-5抗体メポリズマブ 好酸球低下 増悪減少
IL-13抗体 喘息増悪はおさえられないのに肺機能は改善、呼気NO低下
抗TSLP (IL-5抗体 IL-13抗体の上流) 増悪抑制、肺機能改善 好酸球低下 NO低下 IgE低下
IL13受容体抗体 増悪抑制効果はないが肺機能改善
アスピリン喘息 鼻腔ポリープ 粘調粘液栓